bibliophilia ? alcoholic ?

The Days of Whiskies and Books

ファッションと絶滅 とは?




ミステリぽいタイトルだが、
生物学の棚前に平積みだった。

博物館での盗難というと、絵画、美術品がイメージられるのが一般的だが、
自然史資料においても、そう言った事例は結構ある。

これは実際にあった盗難事件のノンフィクション、
2008年に大英博物館 Natural History Museum から
300頭の鳥類の仮剥製標本が盗まれた事件の物語。

物語の始まりは窃盗事件。
当時、22歳だったアメリカ人の青年が
BMの標本庫に忍び込んでスーツケースいっぱいの
熱帯性の鳥類標本を盗み出すところから物語は始まる。

まずは、コレクションの成り立ち、
ルフレット ウォーレスはダーウィンとともに
進化論の成立の立役者だったことはよく知られているが、
その進化論の提唱のために、
自ら熱帯域に赴き。
動植物の採集をしていたこともよく知られているものの、
その前段、南アメリカの探検で、帰りの船を荷ごと消失した
というのは知らなかった。
再起をかけ、ウォーレスは「マレー群島」に極楽鳥を求めて分け入り、
多くの標本を採集し、進化論の基礎になるデータを作り上げるのだが、
その元になった標本は次々と本国に送られ、
その一部は大英博物館の鳥類コレクションの礎となっている。

19世紀末、ビクトリア朝の終わりは博物趣味が普及し、
ファッションとしての博物学が普及した時代、
ウォーレスは熱帯域の珍鳥たちが、いずれ人の手によって絶滅させられるのでは
という懸念を語っているが、
実際、まさか、極楽鳥が、その羽をご婦人方の帽子のの飾りにするために
絶滅に瀕することになるとは考えもしなかっただろう。

その後、羽飾りは、世界的な動物保護の動きから、
廃れては行くのだが、
珍鳥の羽に熱狂するのがご婦人方ばかりではなかった、というのが
この本の原題


『 Feather Thief 』

の物語。

この本にある通り、
珍鳥の羽が狙われ、高額取引されるというのは、

そして、22歳の青年が窃盗に手を染めたのは
なんと、ビクトリアンサーモンフライ、
つまり毛鉤づくりのため。

ビクトリア朝時代に流行した、
珍鳥の羽をあしらった毛鉤を作るために
その界隈ではもう現在入手できない
絶滅、あるいは絶滅危惧種の羽が



高額で、
半ばアンダーグラウンドで取引されているという、
そのために、あるいはそれで一山当てるために、
窃盗事件が起こったというのだ。

そしてその標本には、ウォーレスがマレー群島で
命がけで採集した標本が含まれていた。



盗まれた標本は、恐ろしいことに(キュレーターにとって)



タグを外され、



そして無残にも解体されて、ネットを通じて売り払われていったという。
犯人が捕まり、回収された半数ほどの標本のうち、
タグのついた状態で残っていたのはほんの一部、
ほとんどの標本はタグをはずされ、解体され、
その資料価値はうしなわれていたという。

これは博物館のキュレーターにとっては、悪夢以外のなにものでもない。
200年以上にわたって守り続けてきた、歴史のある(これは内容として)コレクションが
ほぼ灰燼に化したと言っても過言ではない。
たかだかタグが、と思うかもしれないが、
それこそが科学的標本であり、その資料価値である。

行方知れずになっている。標本が残されている状態でも、
すでにそういう状態になっている可能性がある標本に対して、
キュレーターたちは諦め状態にある。あえて追いかけようとはしない。
資料的価値は損なわれてしまった標本を回収しても
その価値はおそらく半分以下、ということを、身にしみて知っているから。

毛鉤の話題に流れがちなストーリーだが、
このふトーリーの主題は、
博物館資料の価値とは?というところにかなり重きが置かれていると
読むのは勝手な思い入れだあろうか?

でも、物語のエンディングは
とても心に痛い。