類似 と 対比 って?
これも結構旧作。
その存在はかなり向かいから知っていた。
題材として中国武術を扱っていること。
ただ、最近まで今野敏という作家にほとんど興味がなく、
ふれることがなかった。
中国武術には興味があった。
カンフー映画などの南派拳ではなく、
入り口は池上遼一の 『 男組 』 である。
「武術」(福昌堂), (1982-2005)なんてのを
創刊当時は愛読していたりしたこともある。
同じように武術を素材として書かれた作品に
『 拳児 』(けんじ)がある。
松田隆智原作の漫画作品というだけで
男組ファン、中国武術ファンにはピンとくる漫画。
『週刊少年サンデー』(小学館)に、
1988年から1992年まで連載されていた。
これは、少年が武術に触れて成長していく物語。
横浜を舞台として、世界に展開していくんだが、
八極拳/劈掛掌を描きながら、
実名に近い登場人物が出てきて、ファンを沸かせた。
基本、まっすぐな少年の成長の物語。
で、読んでみてわかったんだが、
本シリーズは、これと非常に対照的なストーリー。
孤拳伝シリーズの刊行開始が1992、
ちょうど入れ替わるように刊行が始まっている。
読むのを躊躇った一因は
拳児との入れ替わりのタイミングに
なんとなくあざとさを感じたのかもしれない。
こちらの主人公は香港クンルン出身の孤児。
あの街で生き残るために、黒社会と戦い、
そのために、盗み、喧嘩に明け暮れる日々。
殺伐とした日々を盗み見た形意拳の崩拳一つで生き抜いている、
という設定からして、あまりに対照的。
母親の仇を取るため日本に密入国して
仇(実の父)をそれと知って殺害し、
日本の黒社会のなかで、闇試合を生き抜き、
勝つことが、最強になることが生きる使命として
多くの武術家と戦うのだが、
そのうちに、多様な武術に触れ、
強さとは何か?勝つこととは何か?
その疑問に解答を求めるようになり、成長していく
という物語。
拳児と大きく違うのは敵役の描き方、
闇試合で戦ったレスラー、空手家などの変化、成長も
同時に描きながら、というのが、
やはり、漫画ではなく、小説の厚み。
新装版の分厚い中公文庫で5冊、
結構あっという間。
同じ格闘小説でも夢枕獏とは違うのは
少年という主人公の設定?
いや、今野敏の描く人間、やっぱり善良なんだと。